『むぎの穂童話』に掲載されたお話をこちらでご覧いただけます。

『むぎの穂童話』から

毎月第3日曜に発行している『むぎの穂童話』に掲載されたお話を紹介するコーナーです。
今回は、2009年5月17日発行の『むぎの穂童話』第247号に掲載された昔話です。


筑後地方の昔話(再話)

文・田熊正子 絵・秋吉ヤス子

茂佐(もさ)どんの話(その二)

茂佐どんの家は、善導寺の木塚という所にあって、秋には柿の実や栗の実がどっさり取れた。 ある日のこと、母親が言った。

「今年はなんでんかんでん、ばさろ取れたけんで、町へ行って売ってこんかい。」

そして、さっそく荷担(にな)いじょうけに、お茶と栗と柿を入れて用意してやった。

茂佐どんは「そんなら行っちくるばい」と言って、「よいしょ、よいしょ」と荷担い棒で荷担うと、町へと出かけて行った。

しかし、日が西に傾いても茂佐どんの荷は少しも軽くならず、何一つ売れなかった。

茂佐どんは泣きべそかいて、帰って来ると
「おっ母しゃん、いっちょん売れんじゃったばい」 と母親に訴えた。

母親は茂佐どんにたずねた。
「あんたぁ、何んち言うち、さるいたの?」

「そりゃあ、『チャックリカアキヤイーランノウ、チャックリカアキヤイーランノウ』ち、くり返し言うちさるいたたい」

「あきれた。そげんこつじゃ売れんたい。柿は柿、栗は栗ち別々に言わじゃあこて」
「ふーん、そんなら明日もう一ぺん行っちくるたい」


茂佐どんはそう言うと、明くる日も荷担い棒を担いで出かけて行った。

今度は、母親に言われたとおりに
「茶は茶でべつべつ、栗は栗でべつべつ、柿は柿でべつべつ」 と言ってふれ歩いた。

しかし、それでも、町の人たちは、けげんな顔をしただけで、何も買ってはくれなかったそうだ。