『むぎの穂童話』に掲載されたお話をこちらでご覧いただけます。

『むぎの穂童話』から

毎月第3日曜に発行している『むぎの穂童話』に掲載されたお話を紹介するコーナーです。
今回は、2009年5月17日発行の『むぎの穂童話』第247号に掲載された昔話の後半です。


筑後地方の昔話(再話)

文・田熊正子 絵・秋吉ヤス子

茂佐(もさ)どんの話(その三)

又ある日、茂佐どんの父親が 「肥やしがいっぺえ溜まったけんで、あげじゃこて。お前も手伝え」 と言った。

父親はさっさと仕度をして外へ出て行ったが、茂佐どんは臭くて汚い肥え汲みはしたくなかった。しかし仕方なく、しぶしぶ父親の後について行った。

父親は肥やしを肥たご(桶)いっぱいに柄杓で汲みあげると、
「その竹ん棒で、肥溜めん中をようと掻きまぜろ」と茂佐どんに言った。

茂佐どんが鼻をつまんで、おそるおそる掻きまぜていると、イライラした父親が 「まちいっと、腰入れち掻き混ぜろ」といって叱った。

すると茂佐どんはビックリした顔で父親の顔を見つめてもじもじしている。

「ほんなこて、なんばしよっとかあ。早よせんかい」と父親が怒鳴ると、茂佐どんはやおら股引を脱ぐと、便つぼの中に入り、腰を廻し始めた。

あきれ返った父親はあわてて茂佐どんを引きあげると、流川に連れて行って投げこんだ。


父親に川の水で体を洗ってもらった茂佐どんは、父親と肥えたごを中吊って、畑まで運んで行くことになった。

父親より背が低い茂佐どんは、荷担い棒の先の方を担いで歩き始めた。

途中で溝があったので、ちょいと跳んで渡ったら、父親が溝にはまってしまった。
そして肥えたごの中の肥やしがどぼどぼと父親の頭の上に、こぼれ落ちたからたまらない。

父親の悲鳴に驚いた茂佐どんは、大慌てで家へ逃げ帰ると、大声で
「おっ母しゃーん、おおごつんできたあ。 お父っちゃんが、ばば(肥やし)引っかけち糞親父になってしもうたあ」 と叫んだ。

それを聞いた母親は、
「なんちや? うちん人はどうしてそげなばば(婆)さんば引っかけた(手を出した)とじゃろか」
と言って頭にニョキニョキと角を生やしたそうだ。